1.建築物省エネ法の背景

地球温暖化対策として、2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度の水準から26%削減するというパリ協定の目標達成のためにも、エネルギー消費量を減らすことが大きな課題です。日本は2030年度までに業務・家庭部門の温室効果ガス排出量を約40%削減(2013年度比)を約束しており、これが「建築物省エネ法」が制定・施行された背景といえます。

 

2.建築物省エネ法とは

2015年7月に制定され、2016年4月に「誘導措置(任意)」、2017年4月に「規制措置(義務)」、2021年4月からは「説明義務制度」が施工されました。

 

2-1.誘導措置(任意)

誘導措置は、性能向上計画認定とは、建築物エネルギー消費性能基準を超える誘導基準に適合する、省エネ性能の優れた建築物の省エネ計画を認定する制度です。
認定を取得した場合、建築物の容積率の算定となる延べ面積に、誘導基準に適合させるための措置を取ることにより通常の建築物の床面積を超えることとなる場合における床面積(省エネ性能向上のための設備について、通常の建築物の床面積を超える部分(ただし建築物の延べ面積の10%を上限))は算入しないことができます。
性能向上計画認定の対象は、省エネ性能の向上に資する建築物の新築又は増築、改築、修繕、模様替え若しくは建築物への空気調和設備等の設置・改修です。

 

2-2.規制措置(義務)

省エネ基準適合義務・適合性判定と届出、建築主への説明義務(2021年4月施工)があります。
規制措置の適用対象となる規模等は、下記表のとおりとなっています。

規制措置 対象用途 適用基準 審査対象
適合義務 非住宅 一次エネルギー消費量基準 特定建築行為
(特定増改築を除く)
届出義務 住宅及び非住宅 外皮(住宅部分のみ)
及び一次エネルギー消費基準
適合義務の対象に該当しない、
床面積が300㎡以上の
新築、増改築
説明義務 住宅及び非住宅 外皮(住宅部分のみ)
及び一次エネルギー消費基準
適合義務及び
届出義務の対象に該当しない、
床面積が100㎡を超える
新築、増改築

①特定建築物(非住宅部分の床面積が300m²以上)の新築
②特定建築物の増改築(増改築する部分のうち非住宅部分の床面積が300m²以上のものに限る)
③増築後に特定建築物となる増築(増築する部分のうち非住宅部分の床面積が300m²以上のものに限る)

確認申請または建築物省エネ法の届出を施工日前(2021年4月1日)以前に行っている場合、300m²以上2,000m²未満の非住宅用途は適合義務対象外(届出制度の対象)となります。

また、既存建築物は、下記のように適用されます。

非住宅部分の増改築の
床面積
増改築を行う
床面積
平成29年4月以後に
新築された建築物の増改築
平成29年4月時点で
現に存する建築物の増改築
増改築面積が
増改築後全体面積の1/2超
(特定増改築外)
増改築面積が
増改築後全体面積の1/2以下
(特定増改築)
300㎡未満 10㎡以下 手続きなし
10㎡超 説明義務
300㎡以上 届出義務
300㎡以上 適合義務 適合義務 届出義務

 

2-3.説明義務制度

建築物省エネ法第27条では、300m²未満(高い開放性を有する部分除く)の小規模建築物の新築等に係る設計を行う際、建築士が省エネ基準への適合性について評価を行うとともに、建築主に対し、以下に掲げる事項等を記載した書面を用い、省エネに係るその評価の結果等を説明することが義務付けられることとなりました(建築主より当該説明等が不要である旨の書面による意思表明があった場合を除く)。

なお、説明義務は、説明義務制度の施行日である令和3年4月1日以降に設計受託契約を受けた建築物の設計が対象となります。

1)省エネ基準への適否

2)省エネ基準に適合しない場合は、省エネ性能確保のための措置

上記1)では省エネ基準への適否を示し、上記2)では、省エネ基準に不適合である場合に、省エネ性能を確保するためにどのような措置が必要となるかを示すこととなります。
また、説明義務は10m²を超える建築物の新築等が対象となっていますが、建築基準法上必ずしも建築士が設計することを要しない建築物(100m²以下の木造建築物など)を建築士以外が設計した場合は説明義務の対象とはなっていないほか、以下の建築物は説明義務の対象から除外されています。

①適合義務、届出義務の対象となる建築物
②建築物省エネ法第18条で定める適用除外建築物
③10m²以下の新築及び増改築

 

3.適合義務、届出義務及び説明義務の適用除外

建築物省エネ法では、対象となる建築物が一定の要件を満たす場合、規制措置の適用除外とすることが、以下の囲みのとおり定められています。適用除外となった場合、計算対象設備機器の設置の有無に関わらず、規制措置の適用除外建築物として取り扱われます。

①居室を有しないことにより空気調和設備を設ける必要がない用途
イ 物品(機械等も含む。)を保管又は設置する建築物で、保管又は設置する物品の性質上、内部空間の温度及び湿度を調整する必要がないもの
〈政令及び技術的助言で定める用途の例〉
・自動車車庫、自転車駐車場
・堆肥舎
・常温倉庫、危険物の貯蔵場(常温)
・変電所 ・上下水道に係るポンプ施設、ガス事業に係るガバナーステーション又はバルブステーション
・道路の維持管理のための換気施設、受電施設、ポンプ施設

ロ 動物を飼育又は収容する建築物で、飼育又は収容する動物の性質上、内部空間の温度及び湿度を調整する必要がないもの
〈政令及び技術的助言で定める用途の例〉
・畜舎
・水産物の養殖場又は増殖場(常温)

ハ 人が継続的に使用することのない、移動のためのもの
〈政令及び技術的助言で定める用途の例〉
・公共用歩廊

②高い開放性を有することにより空気調和設備を設ける必要がない用途

イ 観覧場その他これらに類するもの

ロ スケート場、水泳場、スポーツの練習場その他これらに類するもの

ハ 神社、寺院その他これらに類するもの

ただし、上記2に該当する用途の建築物は、「壁を有しないことその他の高い開放性を有するものとして国土交通大臣が定める用途(平成28年国交告第1377号)」に規定された用途のみ適用 除外となります。 この告示では、国土交通大臣が定める用途として、建築物の構造が次のいずれかの条件を満たす用途であることを定めています。

・ 壁を有しないこと
・ 開放部分(内部に間仕切壁等を有しない建築物の階又はその一部であって、その床面積に対する常時外気に開放された開口部の面積の合計の割合が1/20以上であるもの)のみで構成される建築物であること

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